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イベントレポート

2012.12.18(火)

「次世代郊外まちづくり」たまプラ大学 その1「幻燈会 こんなまちに住みたいナ ~まちの縁側物語~」

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秋も深まる11月14日、次世代郊外まちづくり「たまプラ大学」その1が開かれました。「たまプラ大学」は、まちづくりのさまざまなテーマや事例を地域の皆さまと一緒に学び、まちづくりについて考える場です。その1は、愛知産業大学大学院教授、NPO法人まちの縁側育み隊代表理事の延藤安弘さんを招いて、国内外の「まちの縁側物語」のお話をしていただきました。延藤さんの講談風の軽快な関西弁によるお話は、どれも生き生きとしていて、会場も笑いにつつまれたとても楽しい講義となりました。

絵本にみる、子どもとまちの育ち合い

まず話は、一冊の絵本から始まります。英国のジェニー・ベイカ作『ビロンギング』です。舞台はロンドン、主人公はトレイシーという一人の女の子。彼女の成長に伴って、町の住人が暮らしやすい町を取り戻していく物語です。はじめは車や高層ビルに占拠された住みにくい都市がトレイシーが歳を経るごとに、少しずつ変化していきます。「道は私たちのもの」と気づいた住人が「車はここまでしか入ってはいけない」というルールをつくり、子どもたちが道に戻ってきます。高層ビルだらけよりも自然と共生する町にしようと緑を植え、コミュニティガーデンに。トレイシーが大人になる頃には、すっかり緑に覆われた居心地のよい町へと変貌していきます。ロンドンのダウンタウンの道路を「縁側」に見たてて、「子どもはまちと共に育つ」、そして「町は自分たちの手で変えられる」というメッセージが伝わってきました。
 

ボローニャの「セントル・ド・ソシアーレ」(社会センター)

話は、小気味よくロンドンからイタリアへ飛んでいきます。
具体的な事例として初めに紹介されたのは、イタリア・ボローニャの「セントル・ド・ソシアーレ」(ソーシャル・センター)です。人口約38万人の都市ボローニャで、市民の要望に応じてセントル・ド・ソシアーレが42カ所も設立されました。なるべくお金をかけずに、馬小屋だった建物を改装するなどして、中庭付きの居心地の良い空間がつくられ、多くのお年寄りの居場所となりました。昼間からゲームを楽しむ人々や、一人でゆっくり新聞を読む男性、にぎやかなパスタ・パーティなど、それぞれが思い思いに時間を過ごします。

併設されたバルも人気があり、センターの運営費はここの売り上げで賄われているとのこと。必ずしも皆で何かをしなければならない場ではなく、過ごし方に幅があるしなやかさがとても大切と、延藤教授は話します。自主的にダンスパーティーやパスタパーティーが行われるなど、仕事帰りに若い人も立ち寄る魅力的な場所になっているのです。 

縁側文化の再創造

ボローニャの町には、建物の前に屋根のある通路「ポルティコ」があります。ここがボローニャの「縁側」なのですね。ポルティコは、人々が集いおしゃべりをしたり、お茶やお酒を飲む社交の場。日本にも昔はそんな、内と外の中間にあたる縁側文化がありました。
次に紹介されたのは、この縁側文化を取り戻そうとする日本の取り組みです。延藤教授も代表理事をつとめる「NPO法人まちの縁側育み隊」は名古屋で始まって、今全国に広まりつつある活動です。家の庭を病院帰りの人向けに休憩所として開放するようになった方や、通りがかりの人に、椅子とお茶を進める「しののめ喫茶」を始める方など、自らプライベート空間を開く人たちが現れました。「一服ベンチ」と呼ばれる簡易的な休憩所もつくられ、高校生からお年寄りまでが立ち寄る多世代交流の場も。人任せではなく、自分から開くことが町に人間関係をつくる第一歩、と延藤教授は話します。

さらに教授は、まちづくりにおいて6つの「わ」(和・吾・回・話・環・輪)がバランスよく保たれた状況を「縁パワーメント」と表現します。自立共生の人間力と地域力を育む過程としくみのことです。 

個と共同のバランスを考えてつくられた集合住宅

最後に紹介されたのが、京都市洛西ニュータウンのコーポラティブ住宅「ユーコート」の事例です。今から30年前に「住む人が主人公の住まいづくりをしよう」との呼びかけで集まった48名の住人が、専門家を入れて3年間「どんな家にするか」を話し合い、自分たちの住処をつくっていったとてもユニークな集合住宅です。

ここでは中庭を囲む形で建物が建っており、庭は居住者が顔を合わせる交流の場でもあります。バルコニーには仕切りがなく、子どもたちはバルコニーを伝って自由によその家と行き来できるのも一つの特徴。池も、庭の植え込みも、子どもの自主性を育む場として活用されました。結果、子どもたちの間には異年齢集団ができて、共に面倒をみあう空気が生まれていきました。親以外の大人との関係の中から多様な人間関係やコミュニケーションを学ぶこともできました。住民が企画した行事が一年を通して行われるなど、郊外住宅地の集合住宅でも住民たちの努力で素敵なコミュニティが生きています。

最近の話題は、一度巣立っていった子どもたちが10世帯近くもユーコートに、そしてユーコートの空きを待って近所に戻ってきているです。このことは、人工的に開発され、見知らぬ者同士が集まってできた郊外住宅地や集合住宅においても、世代が継承されていき、コミュニティが持続していけることの証左といえるかもしれません。これからの地域コミュニティのあり方にとって、大きなヒントになりそうです。

美しが丘も緑の多い美しい町。こうした閑静な住宅街には寂しく暮らす人も多いと話した上で、教授はこう述べました。「プライバシーが重視される今日、すべてに開かれた地域社会は実現不可能です。”半ば開かれ、半ば閉じた関係”をどう築くか。しなやかな関係づくりが必要です。」個と共同のバランスが大切であることを示唆して、会は終わりを迎えました。 
 

参加者の感想

N.Mさん(60代・女性)
延藤先生の話は抜群に面白かったです。今日の事例はとても理想的だけれど、どこまでを美しが丘で実現できるのか。現実からは遠すぎて、簡単じゃないだろうと思います。でも今日の話を聞けたことが第一歩です。

T.Sさん(20代・女性))
本当に様々な方がこの場に来られていることに驚きました。私は横浜の青葉区から来ましたが、同じように新しい郊外の町なので、参考にできそうなことがたくさんあり、ベンチを置くなど、すぐに実践できそうだなと思いました。

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