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イベントレポート

2013.03.01(金)

「次世代郊外まちづくり」たまプラ大学 その5「新しい街づくりのか・た・ちを考える〜厳しい地球環境制約の中で描きたい心豊かな暮らし〜」

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ひと足早い春がやってきたかのように暖かい日が続く2月4日、たまプラ大学その5「新しい街づくりのか・た・ちを考える〜厳しい地球環境制約の中で描きたい心豊かな暮らし〜」が開催されました。お話を伺ったのは東北大学大学院環境科学研究科教授・工学博士の石田秀輝先生です。今回は、石田先生が提唱する「ネイチャー・テクノロジー」を、まちづくりという視点から捉えた、大変興味深い内容となりました。

まちづくりの最終的な目標は何か?

“まちづくりの最終的な目的は何か?”、まずこの問いかけからお話が始まりました。まちとは人間が暮らす場所のこと。そしてまちづくりとは人間が暮らす場所をいかに豊かにするかということが目的になります。これまでは、産業革命以降、社会の近代化や高度経済成長時代は、物が増えることや機能性、利便性といった物質的豊かさが、豊かさをはかる最重要の指標となっていました。

しかし近年になって、人口増大や資源の枯渇、森林破壊、大気汚染、気候変動、食料不足など、地球を取り巻くさまざまな環境問題が深刻になってきています。これらの環境問題は、ちょうど高度経済成長が始まった1960年代後半から急激に増えました。そして、このまま物質的豊かさばかりを追求し、人間活動の肥大化が続くと、環境リスクは2030年ごろに限界に達すると言われています。そこでこれからは、心豊かに暮らすことを担保しながら、人間活動の肥大化をいかに停止・縮小できるかということを考えていかなければいけない時代=脱近代化の時代になったと考えられます。


一方で、内閣府が実施している「国民生活に関する世論調査」では、物の豊かさよりも心の豊かさを求めていると答えた人が7割近くに上っています。また、学生の90%近くが将来に何らかの不安を感じていると答えるそうです。物質的豊かさは向上しているはずなのに、どこか満たされないと感じている人が大勢いるのです。

「生活価値の不可逆性」を認めることから始める

持続可能な社会はふたつの要素をもっています。ひとつは地球のこと(地球環境問題)を考えること、もうひとつは人の欲を満足させることです。人の欲を満足させる、と言われると、なんだか環境問題とは真逆のように感じる人もいるかも知れません。

しかしたとえば今、環境のために我慢して昔みたいな生活に戻りましょうと言われて、あなたは戻れるでしょうか。多くの人が“戻れない”と答えます。それは“利便性を知ってしまったから”なのだそうです。1度、便利な生活を知ってしまうと、あえて不便な生活に戻ることはなかなかできません。このことを石田先生は「生活価値の不可逆性」と呼んでいます。そこで昔には戻れないということを理解し、認め、そのうえで快適さと持続可能性、ふたつの要素の両方を求めていくことが必要になります。人の欲が満たされる社会ならば、自然と持続可能になるからです。

バックキャスト思考から生まれるネイチャー・テクノロジー

近年は、エコテクノロジーの進歩により、家電製品の消費電力も減少の一途を辿っています。たとえば冷蔵庫は15年前の約2割、エアコンは15年前の約6割のエネルギーで運転することができます。ところが社会全体の電力消費量は増加しています。【コメント;電力消費量総量は増えているといったデータの提示があったように思います。ここの主旨は、エコ家電が普及し、単体としては節電なのに、社会全体の消費量は増えている、ということではなかったでしょうか?】また、日本では生活者の約9割が地球環境に関心をもっているという調査結果もあるそうです。ところが、エコ家電が普及し、人々の意識が高いのに地球環境の劣化は今も加速する一方というのが現状です。

環境を意識し努力すればするほど環境が失われていく状況を「エコジレンマ」と言いますが、エコジレンマは、今を原点にして未来を考える「フォアキャスト思考」という考え方により発生します。環境のことを考えてエコ商材が作られるようになっても、利便性を知ってしまった人間は豊かさへの欲求が抑えられないため、エコ商材が消費の免罪符になってしまいます。消費電力が減ったことでエアコンの台数を増やしたり、テレビが大型になったり、車の走行距離が増えるといったことが起こります。

そこで考え方を「バックキャスト思考」に変えます。これは将来の環境などの制約条件をイメージしつつ持続可能で豊かな暮らしを想定し、そこから現在を振り返って、今何をすればいいかを考えるという手法です。


たとえば2030年は、人口増大と水やエネルギーの不足によって現在のように毎日入浴することは不可能だと言われています。ではどうすればいいでしょうか。参加者からは“入浴回数を減らす”“水風呂に入る”“シャワーだけにする”といった回答が挙げられました。「確かに対策にはなりますが、ちっとも楽しくありませんよね。これがフォアキャストの考え方なんです」と石田先生。

これをバックキャスト思考で考えると「毎日お風呂に入りたい。それならば、水のいらないお風呂があればいい!」という発想になります。3〜6リットルの水だけで入浴できる泡のお風呂は、現在開発中だそうです。

このように、持続可能な暮らしに必要な新しいものつくりの形を「ネイチャー・テクノロジー」と言います。ネイチャー・テクノロジーは、バックキャスティングの手法を用いて、制約因子の中で心豊かに暮らせる生活を考える→暮らしのシーンを構成するテクノロジー要素を抽出→必要なテクノロジーを自然の循環の中から見つけ出す→地球にもっとも負荷のかからないテクノロジーとしてリ・デザインする、という形で創出されます。自然の中には、小さなエネルギーで駆動する完璧な循環がたくさん存在します。そこで、自然のすごさを活かして新しいものつくり、暮らし方に反映しようというのがネイチャー・テクノロジーの考え方です。

制約があるから、新しいアイデアが生まれる

「50のライフスタイルの社会受容性調査」では、人が潜在的に求めているものとして、利便性22.1%に次いで、楽しみ20.7%、自然19.9%という調査結果が出ています。この“楽しみ”や“自然”の具体的な形が明らかになれば、心豊かな暮らしのヒントがあるはずです。そこで石田先生は、90歳前後の方々60人に「失われつつある物事」というテーマでヒアリングを行ないました。“昔は良かった”と高齢の方がお話する場合がありますが、どう良かったのかを聞いて、そのライフスタイルを今風に変えてやれば需要があるのではと考えたのです。すると「自然のサインを読む」「山、燃料、水の共有」「直して使う」「物に感謝する」「先祖を敬う」など、約70のキーワードが出てきました。

ではこれらのキーワードを未来に当てはめてみます。昔、お醤油や味噌をご近所から借りていたようにご近所から電気を借りたり、最小限の自然エネルギーシステムを整え、足りない分を電力会社から買うという方法に変えたり、あるいは、車のいらないまちにはどのような移動媒体が必要かといったことを考えたり。そうすると、環境制約があるおかげで、新しいアイデアが誕生するのです。少し考えただけで、なんだかワクワクしてきます。このように、人が求めている豊かさはじつはすでに明解になっているのです。


最後の質疑応答でもたくさんの質問が飛び交い、そのひとつひとつに対する石田先生の回答も、どれも心に留めておきたいすてきな話ばかりでした。特にまちづくりに関する部分で「制約がない絆はコミュニティでもなんでもない。さまざまな人が制約の中で支え合うのがコミュニティです」というお話をされたのが印象的でした。

次世代郊外まちづくりのワークショップでも、環境に対する問題意識をお持ちの方はとても多いです。既存の環境対策に囚われず、ネイチャー・テクノロジーを駆使して、自分たちが楽しくて快適、かつ環境負荷が少ないアイデアが生み出せれば、そこから新しいまちづくりの形が見えてきます。地球、まち、そして私たち人間の未来にワクワクとした希望が感じられるお話でした。
 

参加者の感想

K.Kさん(30代・女性/青葉台在住)
もともとネイチャー・テクノロジーに興味がありました。そうしたらたまプラーザに石田先生がいらっしゃると聞いて、これはぜひ行かなくてはと、子どもを預けて参加しました。考え方がすばらしいですよね。感動しました。次世代郊外まちづくりのワークショップも先日参加させていただきましたが、たまプラ大学と連動して、まちづくりと最先端の自然のことと両方を学べるっていうところが、すごくいいと思います。

T.Iさん(50代・男性/鷺沼在住)
石田先生のお話を聴くのは2回目でした。前回はものづくりの話が中心だったんですけど、今回はまちづくりの取り組みの一環できているということで、新しい暮らし方の提案がないとダメだというお話がありました。そういった提案があったのが、すごく良いと思いました

C.Mさん(20代・男性)
大学で環境に関することを勉強していて、たまたま今日の講義のことを知って参加させていただきました。お話を聴いて、自分の考え方がくるっと変えられてしまいました。エコ技術を駆使すればだんだん地球環境は改善されるのかなと漠然と思っていたんですが、実際には新しい消費や需要を掘り起こしてしまうことになるというお話がいちばん印象に残っています。

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