イベントレポート
2013.09.12(木)
「フューチャーシティフォーラム〜人にやさしいスマートシティとは〜」を開催しました。
残暑厳しい8月23日、たまプラーザ テラス プラーザホールby iTSCOMにて「フューチャーシティフォーラム」が開催されました。今回のフォーラムは「ヒューマンスケールのまちづくり」で世界的に有名なブラジル・パラナ州の州都クリチバ市の都市計画を担うクリチバ都市計画研究所(IPPUC)総裁アドバイザー、ルイス・ブラガ氏の来日視察に合わせて実現したもの。クリチバ市の先進的なまちづくりについてお話を伺い、後半は「人にやさしいスマートシティとは」をテーマにパネルディスカッションを行いました。参加者も約160名と大変多く、客席のイスが足りなくなるほど大盛況でした。
クリチバの歴史と都市計画の変遷
まず初めに、モデレーターの横浜国立大学大学院教授、中村文彦先生より「5分でわかるかもしれないクリチバ」と題して、クリチバの概要説明がありました。中村先生からは、横浜市とクリチバ市の形がよく似ていることや、クリチバの行き届いた都市計画や美しい街並みに魅力を感じ、10回近くも視察に訪れているといったお話がありました。
次に、ブラガ氏が登壇し、クリチバの歴史と取り組みについて、お話ししてくださいました。クリチバの発展は、17世紀中頃に、金鉱を求めて開拓者が流入してきたことから始まります。実際には金鉱山はなかったそうですが、農畜産業に適した土地であることがわかったため、特に家畜の輸送事業とマテ茶の栽培によって、栄えていきました。1830年以降はマテ茶の加工工場なども作られ、1853年に人口の増加に伴ってクリチバ市に昇格。1867年から世界各国からの移民の受け入れを開始すると、人口はさらに爆発的に増えていきます。
そして、まちの整理をすることが急務となり、1943年には、まちの中心から道路を放射線状に作り、住宅、商業、工業、文教地区に分けるなどとした、クリチバ初の都市計画「アガシェ計画」が完成しました。1953年にはこのアガシェ計画を元に都市区画整理法が可決され、部分的に実施もされています。
1960年代に突入すると、まちを17に分けて、そのうち5つを農村部とする区画整理を行ないました。そして1965〜66年、新たな都市計画のコンペが開催され、グランプリ案が採用されることになります。このプランは、公共交通と土地利用に関する方策がメインで、現在もこのプランを元に、クリチバの都市計画は進められています。
「人間」を大切にしたまちづくりを大切にしているクリチバ
現在、クリチバ市の人口は約180万人。横浜市と形がよく似ていますが、用途ごとの色分けの地図を見ると、土地利用パターンがまったく異なっていることがわかります。開発軸となっているのは「道路網+建築規制誘導+バスシステム」などの交通網と様々な連携方策。そして、歴史や環境、住民である「人間」を大切にしたまちづくりです。
特徴的なのは、中心となる道路に沿って高層ビルが建てられ、外側に行くに従って、建物の高さが低くなっていくという土地利用の方法です。空から見ると、高層ビルが1本の道路に沿って並んでいる様子がはっきりとわかります。また、バス専用道路や歩行者専用道路などを設置することで、公共交通の利便性を確保しました。そのため、公共交通機関が市民の足としてしっかり定着しています。一方で緑地政策も成功し、世界の都市ではオスロについで2番目の緑地面積を誇っています。「人間」を中心に検討することで、利便性や公共性を損なうことなく、環境にも配慮した都市を実現したのです。
また、周辺の市町村の人口増加率の上昇に伴い、近年は周辺地域全体の都市化をカバーする必要性を感じています。今後の課題は、市民のモビリティの更なる向上で、地下鉄の設置や、パラナ州を東西に走る鉄道をクリチバから移転させる動きがあるそうです。
横浜とクリチバ、それぞれが抱える課題と希望
第2部では、中村先生の進行のもと、ブラガ氏、横浜市・環境未来都市推進担当理事の信時正人さん、東京急行電鉄・都市開発事業本部統括部長の東浦亮典さんをパネラーに迎え、パネルディスカッションが行なわれました。
まず、昨年クリチバを訪れたという信時さんより「環境と人間を繋ぎ、人にやさしい都市であるという点は、見習わなければいけないと感じた」というお話があり、続いて東浦さんからは「今日の昼間の視察で、クリチバ視察団の方々はごみ収集システムに大変興味を持たれていましたが、なぜだったのでしょうか?」と、ブラガ氏に質問がありました。
「クリチバは、周辺市町村も含めて人口が急激に増え、ごみの輸送が緊急の課題となっています。ブラジルでも清潔なまちと言われていますが、その分、行政の経済的負担や労力が大きいのです。今回、実際に横浜のごみ収集システムを視察してみて、市民参加が重要なのだと感じました。横浜式を導入していくのか、あるいはごみをどうやって減らしていくのかという対策は考えていかなければいけません」とブラガさん。
それを受けて、東浦さんからも「日本は今後、未曾有の超高齢社会を迎えることもあり、地域の方々と行政と民間企業が、連携して様々な課題に取り組んでいかなければいけないと強く感じている」というお話がありました。
ブラガ氏の「行政、企業、住民、教育機関に加えて、自然と協力しあうことの大切さも感じています。それによって温暖化の問題も解決されていくのではないでしょうか」という、環境先進都市らしいコメントが印象的でした。
また、スマートシティについては歴史に絡めて言及し、「短期間に文明が発達した古代ギリシャは、空間と集団を重視していたと言われています。しかし人類が歴史を進めていく過程で、空間と集団の意識は、徐々に薄まってきています。私はIT技術が、このふたつを取り戻すきっかけになるのではないかと考えています」とお話ししてくださいました。
フォーラムは予定時間を過ぎるまで盛り上がりました。時間の関係上、質問の時間などは取れなかったものの、終了後、ブラガ氏や視察団の方々と直接、言葉を交わす参加者もたくさんいました。
人間中心の都市計画を進めると、自ずと環境にも配慮されたまちになる、このクリチバの発想は、今後の次世代郊外まちづくりにおいても、ひとつのキーポイントになるのではないか、そう感じたフォーラムでした。
参加者の感想
Y.Aさん(50代・男性/横浜市都筑区在住)
都市計画関連の仕事をしています。クリチバは都市開発も含めてやられているということや、特に公共交通の先進的な事例があり、そのあたりの話が聞きたかったので参加しました。中村先生のお話もあって、非常に参考になりました。また、日本の場合とだいぶ状況が違うのだなということがよくわかりました。
T.Mさん(50代・女性/横浜市青葉区在住)
まちづくりをする時にいろいろなところの事例を知るというのは参考になりますし、非常に面白かったなと思います。私は青葉区民会議のメンバーで、青葉区全体のまちづくりを考えた時にも参考になるので、次世代郊外まちづくりのワークショップもずっと参加していました。ただ、モデル地区に住んでいるわけではないので、何か協力はしたいけれども外から何ができるのだろうということをずっと考えています。そうやって外からもサポートできるような仕組みがあったらいいですよね。今日の言葉では「市民参加」。決定のプロセスに市民が参加できるというのは、キーワードとしてこれからのまちづくりに非常に重要だと思いました。
U.Iさん(20代・女性/横浜国立大学大学院生)
じつは私はクリチバ市に訪問したことがありまして、中村先生の授業でもお話を聞いていたので、事前知識はありました。私自身は交通が専門のため、今までは交通の面しか見ていなかったので、市民参加の話など、違う面でも本音のお話が聞けたのが良かったです。横浜市とクリチバの接点はどこなのだろうと思っていたのですが、横浜市の人たちが自分たちのやっていることを誇りに思っているところもすごくすてきだったし、クリチバとも通じるところがあったことに、すごく感動しました。もっと話を聞きたかったです。