イベントレポート
2014.11.24(月)
第1回 子ども・子育てタウンミーティングを開催しました
秋も深まる10月21日、3丁目カフェにて「第1回子ども・子育てタウンミーティング」が開催されました。
このタウンミーティングは、次世代郊外まちづくりのリーディングプロジェクト「まちぐるみの保育・子育てネットワークづくり」の一環として実施されたものです。昨年度のヒアリング調査に続き、地域の保育・子育てに関わる職種や役職の方々に集まっていただいて、世界の先進事例の共有と、美しが丘地区での子育てについての対話を行いました。
集まったのは、美しが丘地区にある保育園、幼稚園、小中学校の職員や児童委員、学校カウンセラーや地域コーディネーター、社会福祉協議会など、約40人です。これは、学校や保育関係者に強い人脈がある、住民創発プロジェクト「美しが丘カフェ」の関さんのお声がけで実現しました。地域の子育てネットワークの関係者が一堂に介する、大変貴重な機会となりました。
幼児教育の先進都市、レッジョ・エミリアから学ぶ
学びのテーマは「イタリアの小都市、レッジョ・エミリアとの対話〜子どもが真ん中にある乳幼児教育と市民参加(参与)のまちづくり〜」です。講師は、レッジョ・エミリアの乳幼児教育に詳しく、著書も多数執筆されている立教女学院短期大学・幼児教育科の准教授、森眞理先生。じつは森先生は、過去に9年ほど美しが丘に住んでいたことがあるという、地域とも縁の深い方です。
イタリアでは、こういった学びの席でもワインを飲んだり、食事をしながらワイワイやるのが基本だそうで、みんなで用意された軽食をいただきながら、お話を進めることになりました。
レッジョ・エミリアは、イタリアの人口16万5千人の小さな都市です。90年代にアメリカ版ニューズウィーク誌で、世界でもっとも優れた(前衛的な)幼児教育の場として取り上げられ、世界的に注目を集めました。
1913年に、まちの女性たちの「大切なのは子ども!」という声に推されて、当時の市長が、子どもの衛生・健康の保障を考え、市が運営する保育施設の開設を宣言しました。そして教育や子育てを主軸にしたまちづくりが始まったのです。レッジョ・エミリアでは、教育は子どもの権利であり、その権利を守ることはコミュニティの責任だとされています。
教育から始まった市民参加のまちづくり
レッジョ・エミリアの取り組みには、いくつかの大きな特徴があります。ひとつは「公共性」を大切にしていることです。たとえば、乳児保育所の名前は住民が相談して決めたり、何かをしようという時にはタウンミーティングでアイデアを出し合ったりと、誰もが取り組みに参与するのです。
次に「コミュニティ・センターとしての乳幼児保育施設であること」です。元チーズ工場を活用したロリス・マラグツィ・インターナショナルセンターは、幼児学校と小学校のほか、カフェテリアやブック&フードショップ、デザイン工房やレクチャーホール、市民アトリエ、レッジョ・エミリアの歴史や取り組みのアーカイブを体験できるドキュメンテーションセンターなどが入っています。単なる教育施設ではなく、市民の集まる施設として機能しています。
そして、「市民としての子どもを育てる乳幼児教育」です。レッジョ・エミリアが目指すのは、学力的に優秀な子どもを育てることではなく、良い市民として生きるように育てること。社会に貢献することや文化の継承・発展を大切にしています。
たとえば、レッジョ・エミリアでは、対話するということを重視しています。広場では週2回、市が開かれ、シエスタの間は誰もが公園でのんびり過ごします。まち全体が語り合いの場となる「レッジョ・ナラ」というイベントではまちじゅうのさまざまな施設が開放され、何かやる時には子どもたちにアイデアを求めることもよくあるのだそうです。子どもたちは、こういった大人の姿と、オープンなコミュニケーションの場を見て、体験して、育っていくのです。
そしていつしかレッジョ・エミリアは、子どもだけではなく、保護者、教育者、地域住民、そして行政まで、誰もが主人公として過ごすことのできるまちとなりました。教育から始まったまちぐるみの取り組みが、今ではまちづくりそのものと呼べるほどに、成熟しているのです。
盛り上がった対話の時間
休憩を挟んでの後半は、4〜6名に分かれたテーブルごとに「レッジョ・エミリアの話を聞いて、自分の仕事や美しが丘で活かしたいと思ったこと」をテーマに話し合いました。その際には、MVP【M:mission(使命)V:vision(展望)P:passion(熱意)】という3つの役割を意識して語り合ってください、と森先生。各テーブルには模造紙と付箋が用意され、気がついたことや今後の美しが丘に必要だと思うことなどをメモしていきます。
どのテーブルも、最初から活発な対話が繰り広げられていました。レッジョ・エミリアの事例の良さを改めて語り合っているところ、教育現場の現状や今後必要になってくることを真剣に話しているところ、美しが丘であればこんなことができるのではないかという提案など、ひとりひとりが教育について、熱い思いをもっていることが伝わってきました。
ひとりひとりの思いが詰まった対話の内容は?
約30分の対話のあと、各テーブルのリーダーから話し合ったことの発表がありました。その中のいくつかをご紹介します。
「高齢者やお父さんの1日保育体験など、保育施設を地域に開放する取り組みをやっていきたい(1グループ)」
「校長が変わると学校が変わると言われるがそれではダメ。未来を見通して普遍的な学校システムを構築していきたい。地域と行政がしっかりタイアップして、子育てしやすいまちを作らなければいけないと思う(2+7グループ)」
「今後は地域の連携がテーマになる。現在も、保護者に積極的に学校に入ってもらったり、外部の方を招いて授業を行っている(3グループ)」
「子どもにも考えさせるというレッジョ・エミリアの姿勢はすばらしい。子どもを受け入れる側が、子どものいいところを見て、自己肯定感を高めてあげることが大切(4グループ)」
「美しが丘は教育熱心なお母さんが多いが、子どもの実際の状況が見えていないこともあるのではないか? もっと親と子が繋がれるまちにしていきたい(5グループ)」
「レッジョ・エミリアは、生活そのものがアートという視点で、ものごとを丁寧に見ているところがすばらしいと思った。美しが丘も、そういうことができる土壌はある(6グループ)」
「地元の人がどれだけ今日のような場に参加しているかが大事だと思う(8グループ)」
短い時間の中でも、たくさんの思いが感じられた発表になりました。レッジョ・エミリアの取り組みについての質問も多数飛び交い、みなさんの熱意が、最後まで感じられたタウンミーティングでした。
次世代を担う子どもたちを育てることは、そのまま地域の未来を育てることに繋がっていきます。この日集まった人々の環が、地域全体の生活を変え保育や教育にどんな変化をもたらすのだろうと想像すると、少し先の未来がとても楽しみに感じられた夜でした。
参加者の感想
Kさん(40代/女性)
いろいろなお仕事の方や地域の活動をされている方たちと意見交換ができて、とても嬉しく思います。今も、家庭で子育てをされている方たちへの支援として、交流保育や園庭開放など、いろいろな事業をやってはいますが「もっとこういうことをやってみたら?」という意見を気軽に言っていただいて、すごく刺激になりました。保育園は保育園だけじゃなく、いろいろな方々と繋がって支えられているんだということを改めて感じる機会になりました。とても楽しい時間でした。