イベントレポート

2014.11.04(火)

第1回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェを開催しました

台風一過の秋晴れとなった10月14日、「第1回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」が開催されました。会場は住民創発プロジェクトから誕生したコミュニティスペース「3丁目カフェ」です。

「次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」は、新たなシビック・プライドの醸成に向けて、各界で活躍する専門家の方々をお招きして、先進的なまちづくりの事例を学ぶ場として始まりました。開催場所がカフェということで、サロンのように、気軽にお話を聞くことができます。

過去には全8回のまちづくり講座「たまプラ大学」を開催しましたが、これは住民創発プロジェクトがスタートする前に実施されたものでした。住民創発プロジェクトの認定期間を終え、多くの方々が積極的にまちづくりに関わっている今、学びは即、実践にも繋がっていきます。

視点の転換で、生き残る郊外に!

第1回の講師は、消費・社会・文化・都市についての研究を行い、郊外に関する著書も多数出版されている、カルチャースタディーズ研究所代表の三浦展さん。テーマは「超高齢化社会を迎える郊外の再生」です。

大切なのは“郊外はアーバン(都会)を支えるもの”という従来の視点の転換だと三浦さん。そもそも都心自体が住宅が増えて郊外化していること、交通機関の発達やワークスタイルの変化に伴って地方が郊外化していることなど、時代とともに、都市のあり方も変化しています。

「もう、閑静で緑が多くきれいな住宅地というだけでは、郊外の魅力は足りません。では、これから郊外の住宅地は何をしていったらいいのでしょうか?」

三浦さんは、今後、郊外も含めて居住地の多様化が進むだろうと予測しています。そして人口減少に伴って、生き残る郊外とそうでない郊外に分かれると考えています。

生き残る郊外になるためには、そこに新たな価値観を加えていく必要があります。たとえば、三浦さんは30年近く前にドラマの撮影である郊外住宅地を訪れ、住民の方のクレームで撮影を中止したことがあるのだそうです。多様性のある都市ではドラマ撮影をやっていても怒られないはず、と三浦さん。

「自分と異質なものがどれくらい許容できるかどうかで、都市として面白くなっていくかどうかが変わります。それはつまり、従来の都市計画にはない部分、まちの中身やコンテンツの問題なんです」

?シェア社会を作って、超高齢化社会を乗り切る

日本は今後、2020年をピークに、人口が毎年100万人ずつ減っていくと言われています。一方、後期高齢者は増え続け、特に地方都市は20〜64歳に対する後期高齢者の割合が高く、負担が大きくなります。横浜市では、2040年の時点で、10人の現役世代で約7人の高齢者をみるという現在、年金の受給年齢を75歳以上に引き上げる案も浮上しているそうですが、これは冗談ではなく、そうでもしないと負担が大きすぎるのだそうです。

「そこで今後は、家族以外の人間同士が助け合うシェア社会を作ることが大切になっていきます」

実際にはなかなか難しいかもしれないとの前置きのあと、三浦さんが提案したのは、住宅地をコンパクトにまとめる「スモールタウン(=シェアタウン)」を作ることでした。これにはさまざまなメリットがあります。

まず、効率的に行き届いた行政サービスが提供できるようになります。サービスが近くにあることで高齢者も外出しやすく、ご近所付き合いが増えて、助け合いや見守りもしやすくなります。孤独死の防止、空き家増加による治安悪化や資産価値の低下を防ぐこともできます。

カギは“新しい公共”の創成

「かつて、子どもや高齢者のケアの担い手は主婦でした。しかし女性も働くようになっているので、今度はケアの担い手をシェアしないといけません。だから、核家族単位で完結するのではなく、お互いを開いていく必要があります」

それこそが“パブリック”だと三浦さん。行政も財政難が予想される中、公(行政)と私(市民や企業)が1対1の関係で結ばれていたこれまでの関係から、行政と市民、企業、学校などが連携しあう「新しい公共」を創成していかなければなりません。

三浦さんの考える新しい公共とは、単なる行政サービスの民営化ではありません。行政や企業がやっていたことを市民がやり、行政と企業は市民をサポートし、企業はサポートを事業にするという、相互に支え合い、循環する仕組みです。産官学民の連携を念頭に置いた次世代郊外まちづくりは、いち早く“新しい公共”に気づき、実践している取り組みでもあるのです。

では、郊外を都市化させ、かつ、新しい公共による活性化をしていくにはどうしたらいいのでしょうか?

「都市化とは、結局“人”なんです。人がたくさんいて、いきいきと活動していることが重要です」

ここからは、具体的な事例をたくさん紹介してくださいました。たとえば千葉県の取手井野団地では「とくいの銀行」という取り組みが行われています。これは、各自の得意なことを銀行に貯め、知識や経験、人脈のシェアをするというもの。これによって、住民の交流が生まれ、高齢者にも活躍の場ができました。

空き家のシェア活用も検討すべき課題のひとつです。カフェやレストラン、農園や託児所、別荘やB&Bなど、郊外住宅地の新しいニーズに合わせた用途転換をしていくことが、まちの魅力化に繋がります。そのためには用途規制の緩和が必要になります。

たとえば吉祥寺では、メインストリートに面したマンションの1階を店舗として貸し出したところ、空き部屋が埋まったのだそうです。大家さんは賃料が入り、借り主は安く場所を借りられ、地域に賑わいも生まれました。マンションに住む住人は階下に飲食店や雑貨店ができて喜んでいるそうです。

西荻窪にある「松庵文庫」は、昭和初期の民家をリノベーションしてギャラリーやレストラン、イベントスペースとして活用していますが、今ではすっかり地域の憩いの場となっています。八百屋さんが出張販売に訪れることもあり、駅前まで買い物に行く必要がないと高齢者にも喜ばれているそう。

このように、その地域に必要なものを集めた施設を、三浦さんはシェア型コミュニティリビング「コムビニ」と呼んでいます。コムビニのポイントは、市民が運営を手がけることです。行政や企業がやるとどの施設も均質化しなくてはいけなくなりますが、市民が手がければ、自分たちが必要だと思う機能を取捨選択することができるからです。

対話を通じて、学びを深める

最後に、参加者との対話の時間が設けられました。「まだまだまちづくりに対する無関心層は多い。どうしたら自分ごとだと思ってもらえるのか」という質問には「なにより、どんどん楽しそうにやるしかありません」と言う明快な答えが。

一方で、15年前にたまプラーザ近隣の郊外住宅地に移ってきたという参加者からは、近所の高齢者の方々が若いファミリーが引っ越してきたことをとても喜んでくれているというお話もありました。子どもの面倒を見てくれるなど、普段からいろいろと助けてもらっていて、シェア社会の良さを実感しているそうです。

新しい価値観を育て、時代にあった社会を創り上げていくことが、これから始まる超高齢化社会を乗り切るためにはとても重要になっていきます。三浦さんのお話の随所に出てきたのは、従来の発想や思い込みを捨てて視点を転換する、ということの大切さでした。改めて、これからのまちづくりのあり方や姿勢を考えさせられたお話でした。

 

参加者の感想

J.Yさん(30代/男性)
市民としても、社会人としての企業的な側面からも、まちづくりに興味があってお話を聞きにきました。実際には難しい壁もあるだろうなと感じましたが、行政と企業と市民の役割がなにより大事だということがよくわかりました。いろいろなアイデアを聞かせていただいて、本当にこれが実現すればいいなと思います。

Y.Sさん(40代/女性)
大学院で郊外や都市のあり方の研究をしています。次世代郊外まちづくりにも興味があり、三浦さんの著書も読ませていただいていたので、お話を伺いにきました。すごくいろいろなことを知ることができ、しっかり吸収できたので、きて良かったと思います。

イベントレポート一覧に戻る

メニューを閉じる