イベントレポート
2014.11.13(木)
第2回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェを開催しました
10月28日、3丁目カフェにて「第2回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」が開催されました。
今回のテーマは「部屋づくりからまちづくりへ。〜暮らしの舞台を考えよう〜」。講師は、今、日本でもっとも人気がある賃貸マンションの大家として知られる、株式会社メゾン青樹/株式会社都電家守舎・代表の青木純さんです。会場には、地域住民のほか不動産屋、大家さんなど、同業種の方もたくさんいらっしゃっていました。
壁紙が自由に選べる賃貸マンション
青木さんはもともと不動産系のベンチャー企業で働いていましたが、2011年1月、家業を継いで豊島区の都電向原駅にある13階建てマンション「ROYAL ANNEX」の大家になりました。
ところがもともと空室が増えていたところに震災が起き、退去者が急増。7月には空室率が25%を超えてしまいます。建設時の債務も残っている中、このままでは多額の負債を抱えてしまうと、頭を悩ませていました。
そんなとき、退去したあとの部屋を見た青木さんは、その汚れ方に落胆したのだそうです。あまり大切に使われておらず、原状復帰してしまえば、間取りも内装も代わり映えしない画一化された部屋に戻ります。入居者を増やさなくてはいけないのにこれでは面白くないと思った青木さんは、それほどお金をかけずに部屋を魅力的に見せる工夫として壁紙を思いつきました。
「壁紙を白く戻すのではなく、剥がしてしまって、好きな壁紙を選んでもらおう!」
輸入壁紙はもちろん、ユーザーの好みに合わせて選べるようにカラフルでバラエティ豊富な壁紙を揃えました。自分で好きな壁紙が選べるなんて、賃貸住宅にはなかなかないサービスです。これがたちまち話題となり、今では入居希望者が100人以上待機しているという、日本一人気の賃貸マンションになったのです。「お金がなかったから、頭を使ったんです(笑)」と青木さん。
そのうち入居者からは、壁紙に合わせて床も変えたいとか、カーテンではなくブラインドにしたいといった要望も出始めました。「ROYAL ANNEX」では、こういったことも青木さんと相談の上、実現できます。そして入居者は、壁の装飾や床貼りなどの作業を、先輩入居者に手伝ってもらったりしながら自分たちで行います。自分自身で作業することで部屋への愛着が沸き、大切に使ってくれる人も増えました。
さらに、作業しているうちに住人同士がすっかり仲良くなるというメリットも。エレベーターで会った人が「どんな壁紙にしたの?」と声をかけ、そのまま部屋まで遊びに行くなど、共通の話題があることで交流も生まれました。屋上でバーベキューをしたり、野菜を育てたりと、みんなとても仲がいいのだそうです。そんなコミュニティの存在は、ますますマンションの魅力を高めていきました。
賃貸の新しい形「オーダーメイド賃貸」
さらに青木さんは、デザイナーと大家、そして入居者でイチから創り上げる「オーダーメイド賃貸」を手がけました。古いマンションの需要が減りつつある今、どうせリノベーションして貸し出すのなら、ユーザーと一緒に作ってしまえばいい、という発想でした。つまり入居者は、賃貸でありながら自分が考える理想のお部屋を作り、住むことができるのです。
この賃貸らしからぬ取り組みには、賛否両論あったと言います。入居者には「賃貸なのでいつ出てもいいですよ」と言うそうですが、結果的に住まい手にはこの部屋を長く大切に使おうという意識が生まれ、さらには次の入居者のことも考えるという、まるで大家のような責任感が芽生えるのだそうです。さらに、「この部屋に住みたい!」と気に入った部屋の空きを待つ人が、各部屋10人前後は待機しているという嬉しい状況になりました。
「賃貸だからといって、均質化する必要はありません。それぞれに個性があっていいんです」
こうしたサービスのおかげで、自然と“暮らしを楽しみたい”と考えている人たちが集まり、良好なコミュニティが生まれていると青木さん。
「よくコミュニティデザインという言葉が使われますが、コミュニティはそもそも無理をしてつくるものじゃありません。コミュニティは勝手にできあがっていくもので、それを育てることが本当のコミュニティデザインなんじゃないかと思います」
育つ賃貸住宅「青豆ハウス」
次に青木さんが手がけたのが、新築の賃貸マンション「青豆ハウス」です。場所は練馬区の平和台駅から徒歩約8分の、緑が多く残る住宅街。ここにはご家族の希望もあって、青木さんご自身も住むことになりました。
正面は広々とした区民農園になっており、視界が開けて、朝日がきれいに差し込む立地です。ここで青木さんは、物語のある「育つ賃貸住宅」をつくりたいと思いました。知り合いのライターに依頼して始めたブログは、入居者を集めるためではなく、青豆ハウスみたいな家に住みたいと思う人が増えるようなブログにしましょうと話し合いました。
また、青豆ハウスに興味をもった人たちが足を運べるよう、上棟式や内覧会に合わせてイベントを開催しました。そうこうしているうちに、ここに住みたいという人も現れ始め、完成前に全8世帯の入居が決まりました。もちろんここでも、壁紙や内装は、自分たちで決めることができます。
完成した青豆ハウスは、区民菜園側の開けた部分をエントランスやテラスにして開放的なつくりにすることで、住人同士が自然と顔を合わせ、集う住まいになりました。今では、住人みんなが家族みたいになっているそうです。
“どこに”より“どうやって”暮らすか
青木さんは、ご自身の職業を大家ではなく「まちの採用担当者」と言います。大家とは、このまちでどんな人が暮らすのかを決める仕事でもあるからです。そのため、入居希望者には必ず事前に会うようにしています。
「これからは“どこに”より“どうやって”暮らすのかが大切にされていくのではないでしょうか」と青木さん。
近所の方々や住人同士の顔が見え、自然と交流が生まれる開かれた住まいは、そのまま開かれたまちづくりの縮図のようです。
「住むというのは、人が主役です。そして僕が大家を務める賃貸住宅には、そういう意識をもっている方ばかりが集まってきます。これと同じで、人を視点にすると、まちづくりもうまくいくのではないかと思います」
予定時間をオーバーしていましたが、その後の質問タイムでもたくさんの手が挙がりました。同業者からの率直な感想や契約書などの具体的な話、コミュニティづくりへのアドバイスまで、多種多様な意見が飛び交い、青木さんの取り組みに、多くの人が共感と関心を抱いていることがわかりました。
現在、青木さんは、賃貸住宅運営のコンサルティングやイベント事業を手がける株式会社都電家守舎を共同創業者とともに設立しました。日本中に「ROYAL ANNEX」や「青豆ハウス」のような魅力的な賃貸住宅が生まれたらどんなに暮らしが楽しくなるだろうと、思わずにはいられません。そして、この日のお話をきっかけに、そんな住まいがたまプラーザにも誕生したらと、密かに期待した夜でした。
本文関連サイト
■メゾン青樹
■ロイヤルアネックス
■青豆ハウス
■TED×TOKYO出演動画
参加者の感想
Y.Sさん(40代/女性)
私は青豆ハウスに伺ったことがあったので、今日もすごく楽しみにしてきました。集合住宅では、普通は外から見られるのを嫌う人が多いのですが、青豆ハウスは透過性が良くて、住民の方が外で何が起こっているのかを知ることができます。それによって防犯意識が高まるという、発想を転換した建物だと感じていました。そのあたりも直接伺いたかったので、今日質問できて良かったです。お話が楽しくて、あっというまに時間が過ぎました。
T.Aさん(60代/女性)
新聞で、次世代郊外まちづくりの取り組みを知って、3月に3丁目に引っ越してきました。私は都内に古いアパートを持っているので、今日のお話はすごく興味がありました。そうしたら、自分がやりたかったことを全部彼がやっていたのです。あんなふうにはなかなかできないなとも思いましたが、本当はやりたいですよね。もうちょっとノウハウを蓄えたいと思いました。