イベントレポート

2014.12.03(水)

第3回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェを開催しました

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寒さが日増しに募る11月11日、3丁目カフェにて「第3回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」が開催されました。今回のテーマは次世代郊外まちづくりの中でもたびたび話題に出る“介護”のこと。

長年介護の仕事に携わり、自らが介護者となった経験もある、未来介護プロジェクト代表の小黒信也さんより、「街全体でポジティブケア〜公的介護保険に依存しない新しい介護のカタチ〜」をテーマにお話していただきました。

新しい介護のカタチ“ポジティブケア”

会場に入ると、まず目に止まったのは、各テーブルに貼られた大量の白いテーピングでした。じつはこれは、高齢者の感覚を疑似体験するために用意されたもの。テーピングを両手の指の第二関節のあたりに巻きつけると、指が曲げづらくなり、ものをしっかり握ることができなくなります。また、テーブルに置かれたゴーグルは、白内障を患った方の視界を体験するもので、思っていた以上に白くぼやけて見えづらいことがわかりました。「実際に体験してもらうことで、高齢者の大変さに気づいてもらうことができます」と小黒さん。どのテーブルも、初めての感覚に開演前からすっかり会話が弾んでいました。

お話は、小黒さんのユニークな経歴の紹介から始まりました。続いて、日本の介護の厳しい現状に触れていきます。

近年、介護疲れによる殺人や虐待が増えていますが、超高齢化社会を迎える今後も、その危険性はますます高まっていくばかりだそうです。たとえば、要介護者は増えますが、人口減によって介護従事者や税収が増えないため、在宅介護に比べてコストのかかる介護施設を増やすことはできません。必然的に入院が短期化し、在宅介護が中心になっていくと考えられています。ところが日本の介護保険は同居家族がいることを前提にした制度で、共働きや核家族世帯を想定していません。そのため、将来的に見ても、充分な保障は期待できないのだそうです。

そこで小黒さんは、公的介護保険制度に依存しない新しい介護のあり方、“ポジティブケア”を提唱しています。小黒さんは “ポジティブケア”のポイントを5つ挙げました。

1.お互いのプロフィールがわかりあえる家族の関係性
2.家庭内・地域内における誇りある役割
3.家族の見守り、促し、励ましによる、寄り添う優しさ
4.積極的に老いを楽しむ心意気
5.固定観念に縛られない潜在能力を活用

まず、家族のプロフィールをどれだけ知っているかを、事前に配布されたプリントに記入していきました。今いちばん行きたい場所、欲しいもの、かかりつけのお医者さんの名前、食べ物の好き嫌い、延命希望の有無、どこで介護を受けたいかなど、たくさんの記入項目が用意されていました。いざ書こうとすると、意外と知らないことが多くて驚きます。

「わからない項目が多い人は、すぐに連絡して話をしてくださいね。相手のことを知らない状態で介護が始まっても、ストレスが溜まってうまくいきません」

社会資源を介護に活かす

そして小黒さんが注目したのは、地域の地縁を活かすことでした。千葉県浦安市のある商店街ではほとんどのお店が閉店してしまい、高齢者が外出する機会が激減していました。ところが、年に1度のお祭りの時には、驚くほどたくさんの高齢者が準備に関わり、活躍していたのです。このお祭りをつくっているのは自分たちだ、という誇りが感じられました。

小黒さんは、高齢者がいきいきと、元気に過ごすために必要なのは、楽しみや誇りのある役割、交流の機会の創出だと考えました。そして、すでに地域にある社会資源(Social Resource)を探し、介護や介護予防に役立てることはできないかと考えてみたところ、いろいろな可能性が見えてきました。

たとえば、1000円カットの美容室では椅子が移動できるため、車椅子の方でも利用できるというメリットがあります。カラオケや銭湯、カフェなども、使い方次第ですてきな社会資源になります。資源を活用することで外出の機会が増えていけば、認知症や鬱病の予防に繋がり、地域は消費が増えて活性化していきます。新たな施設をつくる必要もありません。

介護とは「新しい生活をつくること」

また、高齢だから、認知症だからという思い込みをなくすことも大切だそうです。浦安市と江戸川区で行われている「夢の箱プロジェクト」では、空いているスペース(社会資源)を活用し、ハーブを植え、近隣の介護施設で、そのハーブを使ったワークショップを開催しています。

そのようすを記録した映像を見せていただくと、みなさんとても楽しそうです。なかには認知症の方もいるということでしたが、どの方なのか最後までわからないほど、誰もがしっかりと、集中して作業をこなしていました。「この映像からわかるのは、高齢者でも、認知症の方でも、仕事はできるということです」と小黒さん。作られたハーブ雑貨は販売され、わずかですが収入にも繋がっています。

「介護とは“新しい生活をつくること”です。昔の自分に戻るのではなく、今の自分を受け入れて新たな自分になると考えれば、老いも楽しむことができるのです」

介護者へのメッセージ

質疑応答でもたくさんの質問が飛び出しましたが、特に最後にお話された「介護者へのメッセージ」がとても心に残りました。

「とにかく相手のプロフィールをよく知ることが大切です。そのためにも、日頃からきちんと話をして信頼関係を築いておきましょう。そして、その人に寄り添ってあげてください。介護をしている、お世話をしている、と思うとだんだんつらくなってしまいますから」

ネガティブだと思われるできごとも、見方を変えればポジティブに捉えることができます。これから誰もが直面していく介護問題解決のヒントは、まさにそんな視点の転換に隠されているのだと、気づかされた夜でした。

本文関連サイト
■未来介護プロジェクト
■夢の箱プロジェクト紹介ページ

参加者の感想

T.Dさん(50代/女性)
地域に密着した看護を展開する企業の立ち上げ準備をしています。その中で、シニアの方々が地域に密着して、共存していけるカフェをつくりたいなと思っており、お話の中から具体的なアイデアをいただきました。なにより、事業を行う上での視点が一緒でした。とても共感できました。

Y.Mさん(40代/男性)
多世代交流に関心をもっているのですが、ポジティブケアというワーディングに興味が沸いて参加しました。介護する側もポジティブになれるお話で、すごく勉強になりました。あと、テーピングを巻いた状態でお話を聞かせていただいたので、臨場感がありましたね。体験しながら聞くのはとても良い経験でした。

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