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イベントレポート

2013.03.01(金)

「次世代郊外まちづくり」たまプラ大学 その4「生活を支える地域医療 〜超高齢社会のまちづくり〜」

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立春も近づく1月30日、たまプラ大学その4「生活を支える地域医療〜超高齢社会のまちづくり〜」が開催されました。今回お話を伺ったのは、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授の辻哲夫先生です。高齢社会に関するテーマということで、今後問題に直面する50代〜70代の方が多く参加されていました。

日本の高齢者人口は今でも世界的に多いそうですが、今後さらに増加の一途を辿り、2055年には人口の27%が75歳以上の後期高齢者になると言われています。このため、都市部を中心に、病院や高齢者施設の不足、福祉・介護分野の人材不足が大きな課題として懸念されています。そこで、いわゆる団塊の世代が75歳前後になる2025年までに対策を取ることが急務とされています。

この超高齢社会に向けて注目されているのが「地域医療」です。地域医療とは、医療機関での治療やケアにとどまらず、患者が生活する場としての地域を視野に入れて病気の予防や健康の維持、在宅医療、介護支援、生活支援などを行なう医療体系のことです。超高齢社会における地域医療では、高齢者がたとえ体力的な衰えがあっても、いかに自立して幸せに生きることができるかに重点を置きます。

地域包括ケアシステムを整える

今後の政策では「地域包括ケア」がキーワードになっています。地域包括ケアとは、従来、別々に提供されていた医療と福祉・介護のサービスを、関係者が連携・協力して、それぞれの地域住民のニーズに応じて提供する仕組みです。高齢者が住みなれた地域で、自立し、安心して自分らしい生活を送れることを目指しています。

地域包括ケアは大きくふたつの政策に分かれます。ひとつは生活習慣病予防や介護予防といった、予防対策。歩くこと(運動)やダイエット、しっかり食事を取ること、家に閉じこもらないようにすることなどが、病気や認知症の予防に繋がります。そのためにも、散歩の途中で休めるベンチや木陰を作ったり、道を整備して歩きやすくするなど、高齢者が出歩きやすいまちにするための工夫が必要です。また、思わず出かけたくなるようなイベントがあることや、住民同士が声をかけあえる関係性を築くことも大切だそうです。この点はまさに、まちづくりと繋がっていく部分です。

そしてもうひとつは虚弱期のケアシステムの確立です。現在は、虚弱期に自力での生活が困難になった場合、医療機関や介護施設に入所することが一般的になっていますが、24時間体制の在宅医療や在宅介護のシステムができあがり、サポート環境が整えば、在宅でも自立した生活を送ることは充分可能です。

高齢者にとって本当に幸せなことは何か?

辻先生の実感として、施設にいる時と在宅ケアを行なっている時とでは、表情がまるで違ってくるのだそうです。これは自分の生活リズムで生活できること、家族や友人が身近にいて日々の生活に楽しみがあることなどが大きいと考えられます。このように”高齢者にとって本当に幸せなことは何か?”という視点をもつと、在宅ケアを推進していくことのメリットが見えてきます。

ここで、福井県坂井市の90代女性の事例が挙げられました。女性は、転倒による骨折で入院したあと、不整脈と心不全の症状が出始め、そのまま寝たきりとなってしまいました。その後、本人の強い希望と家族の了承を得て自宅療養をすることになりました。女性は自宅に戻ってから食欲が出て明るくなり、心不全の症状に至っては消滅してしまったそうです。

この女性の場合は、ひとり暮らしだったものの、家族が近隣に住んでいて協力が得られたこと、デイサービスなどの訪問サービスが利用できたこと、地域に在宅訪問をしてくれる医師と看護士がいたことなどで、在宅ケアが可能となりました。近くに家族がいないひとり暮らしの方の場合は、地域住民による見守り活動、見守り機能付き住宅の提供など、家族が担う見守り・相談の役割を、行政や地域が補う必要があります。いずれにしても、住民が当事者意識をもち、行政や企業と協力して、在宅ケアが可能なまちづくりを行なっていくことが重要となってきます。

超高齢社会のまちづくり事例「柏プロジェクト」

最後に、超高齢社会のまちづくりの事例として、辻先生も関わる、千葉県柏市の「柏プロジェクト」のお話がありました。居住者の高齢化が進む豊四季団地では、介護サービス付きの高齢者向け住宅を作り、低層階に在宅医療センターやデイサービス、薬局、イベントスペースなどを設けることで、豊四季団地周辺の地域医療の中心を担うという計画が進められています。介護サービス付き住宅は、これまでの老人ホームとは違って自立して生活していくことが前提になる住宅で、さまざまなサポートを受けながら、自分のライフスタイルを崩さずに生活していくことができます。地域の自治会もぜひこのプロジェクトを成功させてほしいと考えていて、地域医療に関する勉強会を開催するなど、プロジェクトの成功を後押ししています。

そのほかにも、高齢者の地域就労(ワークシェアリング)を推進し、農業や軽作業、子育て支援や食堂の調理業務など、個人の特性に合わせて仕事を依頼しています。ボランティアと違い、お金をもらえるということは励みになります。また、社会との接点が生まれて、仕事仲間同士がいい友だちになるのだそうです。
一方で、豊四季団地の場合は、ハード面からの大掛かりな仕組みづくりが行なわれていますが、24時間体制の在宅医療・介護サービスが確立され、地域の見守り活動などのソフト面が整備されれば、どの地域でも、地域医療を推進することは可能だというお話もありました。

質疑応答では、たくさんの方が手を挙げ、質問をしました。誰もがひとごとではなく、これから迎える超高齢社会、そして超高齢社会におけるまちづくりについて、強い関心を抱いていることがわかりました。

高齢者が生き生きと暮らせるまちづくりは、今、各地で急ピッチで進められています。次世代郊外まちづくりのワークショップでも、高齢者が過ごしやすいまちにしたい、という話はたくさん出ています。地域医療をまちづくりにどう取り入れていくのか、その重要性を改めて実感し、具体的に知ることができた講義でした。

「次世代郊外まちづくり」においても、昨年11月末に、横浜市青葉区の医師会や病院、診療所などの医療関係者、ケアマネージャー、訪問看護やデイサービス等の介護事業者と、横浜市、東急電鉄による「地域包括ケアシステム推進部会」が設立され、青葉区において在宅医療の充実と医療・介護が連携した地域包括ケアシステムの構築を目指す取組みが始まっています。

 

参加者の感想

T.Sさん(60代・男性)
シニア世代が、病気にならずにいつまでも元気でいることを推進するNPO法人を設立予定です。今日お話していただいたワークシェアリングなどは活動のヒントになりました。家に帰ったら元気になるという話がありましたが、やはり心の問題は大きいですね。誰かが見守る体制や相談する場所を増やしていくことは大切だなと思いました。家族だけじゃなくて地域でできることなんだなと実感しました。

H.Tさん(40代・男性)
次世代郊外まちづくりのワークショップに参加していて、今日も興味があって参加しました。これからは、自分が最後まで意識をもって、どう老いてどう死ぬのかを考えないといけない時代になったと思います。みんなが自分自身を支える努力をした上で、溢れた部分をどうしていくのかを考える、それぐらいじゃないと、実際問題、追いつかないと思いました。まちをどうしていこうかということは、どう老いに向き合うかということと同義語になってきている気がしています。

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