イベントレポート
2013.05.09(木)
次世代郊外まちづくり 「たまプラ大学」 その8 「まちを使って何をしましょう? 〜この街じゃないとできないよね、といわれるイベントとは〜」
春の気配が感じられるようになった3月12日、様々な角度からまちづくりを考える、全8回のたまプラ大学もいよいよ最終日を迎えました。最後のテーマは「まちを使って何をしましょう? 〜この街じゃないとできないよね、といわれるイベントとは〜」 です。お話を伺ったのは、東京・表参道にある複合施設「スパイラル」のチーフプランナー、株式会社ワコールアートセンターの松田朋春さんです。
「スパイラル」は、レストランやショップ、サロン、ギャラリーなどで構成されていて「アートと生活の融合」をテーマに、様々なアート・プロジェクトを行なっています。そして会社の事業として、全国各地のアート・プロデュースも手がけています。そんなアート系イベントの仕掛人、松田さんのお話が聞けるということで、会場には20代から30代の若い世代も多く見受けられました。
「イベントは、主に3つのタイプに分類することができます」と松田さん。宣伝や情報発信のために行なう「プロモーション・イベント」、アートや食、ホビーなどテーマを設けて行なう「テーマ型イベント」、もうひとつはマルシェやお祭り、行事のような「地域型イベント」です。そして、これらの要素が混じり合った「複合型イベント」もあります。
イベントを見ればまちがわかる
お話は、実際に松田さんが関わったアート・イベントやプロジェクトを紹介しながら進められました。
たとえば横浜港開港150周年記念事業として建設された「象の鼻テラス」では、土地柄、海外との文化交流も視野に入れたアート・イベントを多く開催しています。また、事業の一環として始まった「SLOW LABEL」は、横浜市内の障害者施設や企業、国内外で活躍するアーティストをつなげることで誕生した、すべて1点ものの手作り雑貨ブランドです。大量生産では実現できないものづくりは多くの共感を集め、今では、日本各地で同じ名前のレーベルが立ち上がるまでになっています。これは、アートがまちの活性化に寄与した大きな事例です。
同じ田園都市線沿線の二子玉川駅にある商業施設「二子玉川ライズ」では「タマリバーズ」というイベントを開催しています。多摩美術大学とコラボレートして開催されている地域連携アートプロジェクトで、絵画展や写真展、まちの人を巻き込んだ広場演劇などが行なわれています。通常、こういった大きな商業施設のイベントは、企画会社にお任せすることがほとんどだそうです。しかし「二子玉川ライズ」では“まちのための仕事をしよう”と、自社でイベントの企画制作も行なっています。企業とまち、そして大学が、良い関係性を築きながら地域の活性化を図っているのです。
「イベントはやる場所によって変化するものです。イベントを見れば、そのまちがどんな価値観をもち、どんな暮らしをしているかが見えてきます」
イベントを通じてまちの個性を育てる
また、アートによって都市再生を成功させた海外の事例も紹介してくださいました。イギリスのニューカッセルというまちは、もともと炭坑や造船によって栄えていましたが、炭坑が閉鎖されたことで、徐々に活気を失っていました。そこでアートによる都市再生に取り組んだのです。もともとアートに縁はなく、住民も興味がなかったそうですが、参加型作品を作るなど興味をもちやすい仕掛けを作りました。
するとやっていくうちに大きな変化がふたつ起こりました。ひとつは住民の間に「ここは文化のまちだ」という誇りが生まれたこと。もうひとつは「アートだったらいいんじゃないか」という寛容な気もちが生まれたことです。
「イベントを通じてまちの個性を育てるコツは、まず“公共空間を活用すること”。なぜなら、公共空間はまちのメディアだからです。そして、それは見たことがないものであることが大事です。次に“交流による共有化”です。住民に交流・参加してもらうことで、ほかのまちが羨むものに参加しているというまちのプライドに繋がっていきます。最後に“力量の形成”です。イベントを続けていくと寛容性が生まれ、そのまちでできることが増えていきます。そのためにも地元だけで考えず、外の力を借りるのはいいことだと思います。アーティストにはぜひ参加してもらってください」
たまプラーザで実現できそうなイベントとは?
そしてなんと「たまプラーザで実現できそうなイベント」を松田さんがいくつか考えてきてくれました。まず光の祭典「真夏の夜の夢」。持ち家が多いため、持っている人も多いだろうということで、夏の間、家庭のクリスマス用イルミネーションを集めて、駅前のライトアップを行ないます。
また、たまプラーザ周辺に合唱サークル、音楽教室が多いことから「うたのまち」として音楽イベントも実現できるのではないかとのこと。まちの中に合唱隊が隠れていて突然誰かが歌い始め、そのうちまち全体で輪唱を奏でるようになる「Flash mob」というスタイルはぴったりだそうです。
参考動画 : Christmas Flash Mob by Journey of Faith at South Bay Galleria (you tube)
そして最後に「サーカス」です。「駅が立派で、ここでの綱渡りを見てみたいと思いました」と松田さん。なかでも「うたのまち」は、来場者の反応が良く「実際にやるにはどういう準備が必要か」といった具体的な質問も出ました。
「イベントの意義は、イベントを通じてまちの使い方を考えることです。しかるべきところでしかるべきことをやるのは、悪くはないけどあまり面白くありません。イベントは新しい組み合わせを試す場所。自治の根幹である“このまちは自分たちに属している”という感覚を得るのにイベントはいい訓練になります。そこに“気づき”があるんです」
まちづくりというと、必ず出てくるイベントの話。でもいったい何をやっていいのかわからないという人も多いかもしれません。けれども、少しアイデアを集めてみれば、たちまち日常とは違ったワクワクする気もちが沸いてくるのではないでしょうか。賑やかなまちには人も集まります。松田さんのお話は具体的な事例が多く、まちづくりにおけるイベントの面白さを、しっかりとイメージすることができた講義となりました。
この日の最後は、たまプラ大学全8回にすべて参加してくださった方の表彰式もありました。なんと5名の方が皆勤賞でした。たまプラ大学で学んだことをぜひ今後のまちづくりに活かしていっていただければ、嬉しく思います。
参加者の感想
D.Kさん(60代・男性/皆勤賞)
どの回も大変勉強になりました。特に今日のイベントの話は感銘を受けました。ぜひ、たまプラーザでも実現して、まちを盛り上げたいと思います。
Y.Hさん(40代・女性/皆勤賞)
毎回、どれもテーマが面白くて楽しかったです。今日のイベントの話はすごく興味がある内容だったので、楽しかったですね。これからも、まちづくりに積極的に参加していきたいと思います。
J.Kさん(40代・女性/皆勤賞)
私は専業主婦なので、すごく世界が広がりました。普段テレビや新聞で見聞きはしていても、そんなに気にしたことがなかったので、勉強になりました。全部の回が楽しかったです。今後のまちづくりにも、何かしら関わっていけたらなと思っています。
S.Tさん(20代/女性)
「青葉アート」という、美しが丘地区を使って、住宅街の中にアート作品を展示するイベントを3年に1度開催しています。“まちを使って何をしよう”ということは私もずっと考えていました。でも、お話を聞いていたら、逆に狭い視野になっていたなと気づいたことがありました。すごく有意義な時間を過ごさせていただきました。まちで何かやりたいという気もちが再燃してきたので、もっと大きな、楽しい計画を立てていきたいと思います。