イベントレポート

2015.04.09(木)

第8回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェを開催しました

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春の気配が漂い、暖かな陽射しが差し込んだ3月15日、三丁目カフェにて「第8回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」が開催されました。

新たなシビック・プライドの醸成に向けた先進的で楽しい事例など、各界の専門家の方々から気軽にお話を聞ける場として始まったラーニングカフェも、いよいよ今回が最終回です。

「郊外」「団地」「コミュニティ」から連想される言葉は?

講師は、株式会社日建設計総合研究所/理事・上席研究員の石川貴之さん。テーマは『これからの郊外・団地・コミュニティを考えよう 〜「あこがれの団地ライフ」第二幕へ〜』です。

石川さんは、株式会社日建設計に入社後、大阪ドームシティ再開発や難波再開発など、国内の都市開発と施設企画に従事していました。2008年からは日建設計総合研究所にて「都市と環境の融合」「低炭素都市の実現」をテーマに、国内外の都市計画・都市開発業務に携わってきた都市開発の専門家です。

はじめに「郊外」「団地」「コミュニティ」という言葉からイメージするひとことを、参加者が付箋に書いてホワイトボードに貼るという、簡単なワークを行ないました。「住みやすい」「自然が豊か」「助け合い」といたポジティブなイメージから、「古い」「高齢化」といったネガティブなイメージまで、たくさんのキーワードが出揃いました。それを見て『僕が今日用意した話は、みなさんの参考になりそうでよかったです』と石川さん。

お話は「今、郊外で何が起きているか」「団地の昔と今」、そして「コミュニティに取り組む」の3部に分けて進められました。

都心との差別化を図り、選ばれる郊外へ

まず、「郊外」についてのお話がありました。
『日本はすでに人口減少局面に入っており、2050年には、人口が9,700万人まで減ると言われています。じつにピーク時から3,000万人の減少です。これは人口が少ない県から数えて26県分の人口が消滅するのと同じ数です。一方、高齢者数は3,770万人に増え、人口の4割近くを占めることになります。

人口予測は極めて高い確率で当たる予測で、今から少子化対策を打っても、効果が出るのは20年以上先となることから、この予測はおそらく現実のものになるだろうと言われています。

人口予測は極めて高い確率で当たる予測で、今から少子化対策を打っても、効果が出るのは20年以上先となることから、この予測はおそらく現実のものになるだろうと言われています。

また、人口がそれほど減らないと言われている東京圏も例外ではありません。2010年の東京圏の人口は3,560万人、うち高齢者人口は730万人。これが2050年には人口2,980万人、うち高齢者人口が1,150万人となります。総人口は減っているのに、高齢者人口は増えているわけです。

地方の人口は大幅に減りますが、高齢者の数もそれに合わせて減っていきます。ところが東京圏の人口減少スピードは地方に比べて緩やかなものの、高齢者数はそれに反比例するようにどんどん増えていきます。このあおりをいちばん受けるのが、都心ではなく郊外だとも言われています。

人口減少時代を迎えた今、郊外への都市の拡大を抑制し、中心市街地の活性化を図り、効率的で持続可能な都市の「コンパクトシティ」化が推進されています。このコンパクトシティの課題は、まさに、すでに拡大した郊外をコンパクトシティの中でどう捉えるか、ということですが、コンパクトシティ=郊外の縮退か、というとそうではない』と石川さん。

「これからは今以上に働き方が多様になる。郊外が持っている魅力的な環境の中に、多様なワークスタイルを可能にするインフラやシステムが整備されれば、単に「住む」ことが中心だった郊外が、「働く」ことも含めたトータルな生活の場として生まれ変わり、人々に選ばれるまちになっていけるはずです」

つまり、都心回帰が進めば進むほど、郊外にとっては都心との差別化を図り、新たな選択肢となるチャンスになりえるとのこと。

時代に合わせて、変化を求められている団地の今

次に郊外都市のシンボルともいえる「団地」を見ていきます。団地は、高度経済成長期における都心部の住宅不足を解消するために、各地に建設されました。なぜ団地は、多くの若い世代に支持されたのでしょうか?

『実は団地は、当時の最先端の暮らしを提供していました。たとえば、今では珍しくないDKを初めて導入し、寝食の部屋を分離したこと。2DKとすることで、子どもと親の寝室を別にできたこと。明るい台所とステンレス製の流し台、浴室と水洗トイレが住戸内にあり、ガスをひねれば風呂が沸くなど、設備も当時の最新鋭だったこと。全員が外から移り住み、その居住者の多くは都会で働くサラリーマン世帯でした。同世代の子どもたちもたくさんいて、公園も整備されているなど、子育てしやすい環境の中で新しい地縁を作っていけたことも、魅力的だったと思います。

そうでなければ、人はここまで郊外に来なかったでしょう。

しかし、時代は変わり、団地ライフは憧れの暮らしではなくなりつつあります。ただ、一方で、最新マンションにはない魅力を感じている若い世代が団地に注目し始めています。

昔アイドルだった女の子が女優になり、作家活動を始め、文化人へとバージョンアップしていくように、良いものは引き継がれ、時流を読んで、変化しながら成長することで時代に合った価値を提供し続けることは可能です。』と石川さん。

居心地の良い居場所をつくる

次に「コミュニティ」です。
『コミュニティ形成に取り組んでいくことはとても大切なことです。コミュニティに取り組むと、繋がりができます。繋がりができると、役割ができ、役割ができると地域社会に参加しやすくなります。そして新しい地縁(絆)が生まれるのです。

たとえば、町田市の山崎団地では、やぎによる除草実験が行なわれています。住民の草刈りの負担が軽減するほか、子どもたちにも大人気で、コミュニティを盛り上げる要因になっています。京都府八幡市の男山団地では、URと関西大学の連携による学生常駐のコミュニティの活動拠点「だんだんテラス」が賑わいをみせています。イベントも多数開催され、地域住民の憩いの場となっています』と石川さん

その中でも、特に最近石川さんが注目している「非営利法人ibasho」の取り組みが紹介されました。「ibasho」は高齢者の自立支援からスタートした地域再生プロジェクトで、高齢者の知恵や経験を活かすコミュニティづくりを行なっているとのこと。

『東日本大震災のあと、大船渡市に古民家を移築・改装してできたのが、居場所ハウス第1号です。居場所ハウスは、誰でも自由に利用することができます。朝市やそば打ち体験、竹とんぼづくりなどさまざまな取り組みが実施されていて、高齢者が毎日楽しみに施設を訪れるだけではなく、子どもたちが隣の和室で宿題をしていたりと、多世代が気軽に集い、交流する場として機能しています。

たとえば『ibasho』と団地再生を組み合わせるというのはどうでしょうか。郊外や団地は、これから先、いろいろな要素を取り込んでいける可能性を秘めているからこそ、「絆」を創るためにぜひ居心地の良い場所をつくっていきましょう」

居場所にとって大切なことはオープンであること

最後に、参加者からいくつか質問がされました。「たとえば、最近よく耳にするコミュニティカフェと居場所は違うのか?」という問いには「コミュニティカフェも居場所だと思います」とのこと。

「ただ、僕が思う居場所とは、いろいろな人が無理なく入ってこられる環境であることが大切だと思います。同じメンバーで固定されるのでは無く、よりオープンな場所に発展していくことが、普通のコミュニティカフェで終わるか、居場所になるかの境界かもしれません」

郊外も団地も時代に即して成長していくためには、そこにしっかりとした持続可能なコミュニティが必要です。居場所は単なる空間でなく、人とのつながりを含んだ居心地の良い空気感のようなものを創る場であるからこそ、郊外や団地が新しく生まれ変われるきっかけを生む可能性を秘めているということなのかもしれません。すべてはこれからの取り組み次第だと、改めて実感させられたお話でした。

 

参加者の感想

T.Mさん(30代/女性)
最初は仕事で次世代郊外まちづくりの取り組みを知りましたが、とても楽しいので、会社とは別にいろいろな活動に参加させていただいています。団地で起こっていることは、日本全体で起きていることの縮図みたいなものだと思います。団地がどのように変わっていくか、これからどう魅力を向上させていくべきなのかというところに非常に興味がありました。お話を聞いて、地域の元気の源になる場所なのだということを改めて感じました。居場所の話がありましたが、居場所を見つけるという意味でも、いろいろ可能性がありそうですね。

R.Sさん(20代/男性)
団地の再生に興味があって来ました。今日の話は、全体の概要としては面白かったですが、もう少しこのエリアでどうしたらいいのかという具体的な話が聞けたら、もっと良かったなと思います。たまプラ団地は立地がすごくいいので、ポテンシャルがあると思います。変われば住みたいっていう人は増えそうですし、まちの雰囲気全体が変わりそうな気がします。僕も再生した団地に入居してみたいなって思っているひとりです。期待しています。

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