イベントレポート

2014.12.05(金)

第4回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェを開催しました

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冬の気配が色濃くなりつつある11月25日、三丁目カフェにて「第4回 次世代郊外まちづくり ラーニングカフェ」が開催されました。今回は、子育てや教育・学習の観点から、まちづくりを捉えます。

未来をつくるのは子どもの想像力と創造力

テーマは「これからの時代に必要な力〜創造力とコミュニケーション力〜」。講師はNPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役で、慶応義塾大学准教授の石戸奈々子さんです。子ども向け創造・表現活動を推進する活動をしてこられた石戸さんは「未来をつくるのは子どもの想像力と創造力」ときっぱりと話します。

ロボット工学を学んでいた石戸さんが、現在のような子ども向けの活動を始めたきっかけは、ボストンにあるMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボに衝撃を受けたことでした。『オープンでデザイン性の高い空間。ひらめいたらすぐにつくれる環境。多様で深い専門性のコミュニティ。学び合い教え合うフラットな関係。多様性に対して寛容で、常に非常識なことに挑戦し続けるスピリット。新しい価値をつくりだすことに最大限の賞賛の言葉をおくる「demo or die」のポリシー。そしてテクノロジーと社会との接点を常に模索し、思想と技術を普及させていく活動。開かれたクリエイティブな学び場のあり方に、強い感銘を受けた』とのことです。

子どもの創造性を育むワークショップ

OECDが行なっている学力到達度調査PISAでの日本の順位は、数学で2000年に1位だったのが、その後6年で10位にまで下がりました。でも実はもっと深刻なデータがあり、勉強を楽しいと思うか?役立つと思うか?と聞くと、国際平均と比べて、勉強が楽しくない、役に立たないと回答するこどもが20〜30ポイント多く、モチベーションが低いというのです。加えて、企業の新卒採用の選考基準として重視されているのは、学力ではなく、コミュニケーション能力や主体性、協調性なのです。

「日本の教育は、こういった力を育む学びになっていないことが問題だと思いました」

そこで“つくる”という体験を通して子どもたちの創造性を育もうと、現在までに約2000回、のべ30万人の子どもたちに、さまざまなワークショップを提供しています。
たとえば、2日間で10万人の子どもが参加するという世界最大規模のイベントとなった「ワークショップコレクション」では、さまざまな“つくる”ワークショップを実施しています。

大学のキャンパスで3日間に渡って開催される「サマーキャンプ」では、映像やロボット、クレイアニメなど、ひとつの作品を創り上げる体験をします。終了後、保護者の方からは「授業で手を挙げるようになった」「家での会話が増えた」「朝、自分で起きられるようになった」など、生活態度が変わったという声が多く聞かれるのだそうです。「ひとつの作品を創り上げることで、自分に自信がつくのではないでしょうか」と石戸さん。

子どもたちのクリエイティビティを損なうことなく、創造や協働(コラボレーション)の楽しさを知ってもらうために、ワークショップは最適なツールなのです。

子どものためにも、ICTをよりよく使えるようにする

また、近年注目しているのは、やはりICT分野の学習です。子育てにネットが必要かというアンケートでは、じつに84.6%の人が「必要」と回答しているそうです。子守唄を聞かせたり、デジタル絵本をダウンロードしたり、わからないことがあった時に調べたりと、今やデジタルを子育てに活用するのは当たり前の時代になりました。そこで石戸さんは、デジタルえほんの普及や、子どもの創造力を育むアプリの制作を行っています。

「いつの時代も、新しいメディアが出てきたときは批判されます。それが子どもに向けたものとなればなおさらです。しかし今後、子どもたちが、デジタルにまったく関わることなく生きていくことはありえない。であれば、こういったデバイスをよりよく使えるような学びの場を提供することが、大人の責務なのではないでしょうか」

2020年までに一人一台情報端末を持って学習環境を整えることが政府の目標として掲げられ、教育現場においてますますICTは普及していくでしょう。また、プログラミングが中学校の技術家庭で必修となったことなどを受けて、プログラミング学習も国内外問わず盛り上がってきています。石戸さんは、グーグルとともに、今年だけで2万5000人の子どもたちにプログラミング・ワークショップを届ける「PEG(ペグ)」というプロジェクトをスタートさせました。

まちづくりに一体感をもたらす子どもの存在

一方で、最近はまちづくりに関連した仕事の依頼が増えていると言います。ご自身の経験からも、子どもたちのための活動に関して、たくさんの大人が協力をしてくれることを実感してきました。「子どもたちには求心力があります。子どもが主役としていることで、まちに一体感が出て、地域の活動も活性化されるんですね」。

たとえば「キッズ地域情報発信局」は、子どもたちが地域の情報を、取材し、ブログ、ポッドキャスト、新聞、映像などを通じて発信するプロジェクトです。子どもたちがまちに関わると同時に、ICTリテラシーを、体験を通じて身につけてもらうこともできます。

「ICTを使った安心安全なまちづくり、というとGPSで子どもの居場所を確認するといった使い方がよくあります。それはそれでもちろん効果もあるのですが、ICTを監視のツールとして使うのではなく、子どもたちがもう一度自分のすんでいるまちを深く知り、地域のひとたちとのつながりをつくりなおすためツールとして利用していきたいと思っています。活動を続けると、まちの人と顔見知りになり、声をかけ合うようになります。それこそが、本当の意味での安心安全なまちづくりになるのだと思います」

次の10年でやりたいこと

最後に、「願えば叶う」「言えば、いいご縁がやってくる」と考えている石戸さんは、次の10年でやりたいことを発表しました。「デジタルランドセルの普及」「学校での創造表現教育の強化」「子どもの党結成」「子ども商品開発ラボをつくる」「バーチャル子ども美術館」「デジタルtoy開発」など、すぐに実現できそうなものから、遠い夢のような目標までたくさんのリストが挙がり、聞いているだけでも期待が高まりました。

最後の質疑応答では、学校の先生やデジタルツールの普及に勤める企業の方、そして「ワークショップコレクション」の常連だというお子さんのお父さんまで、たくさんの方が、それぞれの視点から質問や感想を話してくださいました。特にICTの普及や、それに伴う課題については、白熱した意見交換が行われました。

子どもが元気なまちは、不思議とまちそのものも活気に満ちていきます。子どもたちの創造力を引き出し、その潜在能力を高めてあげること、そして地域の活動にも繋げていくことは、子どもにとってもまちにとっても、とても魅力的で楽しい未来への第1歩なのかもしれません。

本文関連サイト
■NPO法人 CANVAS
■ワークショップコレクション
■プログラミング学習普及プロジェクトpeg(ペグ)

参考著書
『子どもの創造力スイッチ!遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践』(フィルムアート社)
『デジタル教育宣言/スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来』(角川EPUB選書)
 

参加者の感想

Y.Tさん(50代/男性)
教育の仕事をしていますが、お話を聞いていて、とてもワクワクさせられました。良い刺激をいただきましたね。特に、コラボレーションの大切さを改めて感じました。実際にはハードルもありますが、この先、地域のみなさんと一緒にどんなことができるか、じっくり考えていきたいと思います。

S.Tさん(60代/男性)
すばらしい取り組みをされている方だなと、感動しました。私が考えていた以上に、デジタルにはいろいろな可能性がありますね。ITを使ったまちづくりの取り組みを行っているので、とても勉強になりましたし、面白かったです。ぜひ今後、石戸さんにもご相談させていただいて、一緒に何かできたらと思いました。

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